びゅう、と風が吹いた。
 足元には遠く町並みが広がっている。
 キラは茫洋とした視線でそれを見下ろした。だがその映像は頭の中に入って来ない。網膜に焼き付いた映像は脳まで辿り着くことなくまた新しい景色を写す――キラにも無意識のうちに。
 数歩先の花がふわりと揺れて足に触れる。ゆっくりとキラはそれに目をやった。
 黄色の小さな花。手を伸ばすと風に震えて花びらを散らした。まるで――太陽が千切れるように。
「……っ」
 ヒクリ、と喉が鳴った。
 泣いてはいけない。そう思う。自分は仮にも軍人なのだから。
 先ほど、大戦後の軍事裁判により異例の二回級進を受けたばかりの――そうだ、自分は大尉なのだから。
 大尉、と。
 口にしてしまえば、涙が零れてしまうような気がした。
 こんなに早く、あの人に追いつくつもりはなかったのに。
「……大尉ッ……」
 出会った頃のあの人は、そう呼ばれていた。キラもそう呼んだ。そう呼ぶと、いつもからりとした笑顔で振り向いてくれた。
 金色の髪が思ったよりも柔らかそうで、間近で見て、何度も見蕩れた。
 その感触も、その時の鼓動の高鳴りもまだ覚えているのだ――悲しいくらいに。
 もう、その人は、いないというのに。
「少佐……っ……」
 キラの目から、涙が滴り落ちた。ぽろりぽろりと数えられるくらいのそれが、やがて頬を伝って痕を作った。
 慌てて手のひらを顔に押し当てると、乾いた手のひらが痛い。
 そう――あの人の手のひらも、こんなだった。
 乾いていて、大きくて、でも温かくて。
 何度も不安で壊れそうな自分を、引き寄せて慰めてくれた。
「いやだ……、少佐ァっ……」
 彼が逝った時でさえ出なかった理不尽がキラの口をついた。
『ストライクは連れて行く』
 元は自分の愛機であったストライク。それに乗ったフラガに、画面越しでそう言われた時、背筋が凍るほどに冷たくなったのは――自分だけだったのだろうか。
『許してくれ、キラ』
 何を、と問う暇もなく。
 あの人は逝ってしまった。
「……嘘つきっ……」
 もう、何も失いたくないのだと。
 そう吐露する度に、大丈夫だから、と。
 そんなに心配しなくても、俺は何処にも行かないさ、と。
 そう笑って抱きしめてくれたのに。
「……嘘つき……」

 貴方はもう、僕の傍にはいないのに。
 どうして貴方の温もりだけが、こんなに残っているのだろう。

***
フラキラ、フラガ死ネタでした。