tie




 突然、縛り付けられたように、彼の視線から動けなくなった。


「知りたい?」
 ふ、と彼は笑うと、一瞬視界の中から消えた。
「俺がアレンをどう思ってるか」
(え)
 するりと風が流れ込む。
 気付くと目の前に彼の整った表情があった。
 それまでと違う雰囲気に、思わず足が後ずさる。
「ラ……」
 全部を言わせず何かが唇に触れた。
 それは。
(……っそ)
 嘘、という脳内の言葉でさえ、ん、という彼の小さな吐息によって弾け飛んだ。
 言葉が。
 拡がらない。
 何かを思うたびに何かがそれを消していって、言葉が唇までのぼらない。
 受け皿を失った唇はただ震えて、ラビのそれを。
 多分同じ機能を持つはずの唇を受け止める。
 それだけで顔面と言わず全身から焔が上がりそうにアレンは身体が熱くなるのが判った。
「アレン……」
 掠れた声で呼ばれて、ぞくり、と背筋が震える。
(ああ)
 瞬間離れた、と思った唇はすぐにまたついばむように互いに触れ合い。
 そうするだけで容易く体温が交換されていくのが判った。
(同じ)
(なのに)
 こうして触れ合うと幾度か違う体温の差。
 乾いて柔らかいラビの唇は居心地がよく、アレンは知らず目を閉じた。
 後ろの髪をまさぐられる。身体を押し付けられて、背中が強張った。
 ふ、と漏れる吐息の数が増えていく。
 そのたびに、じんわりとした熱が蓄積していくようにアレンは思った。
 繰り返されるたびにラビの唇が熱くなっていく。
「……ぁ」
 思わず漏れた声に、ラビがくすりと笑うような雰囲気を見せた。
 その声が、何だか欲情しているようで。
 ずくり、と脊髄から腹の底へその衝撃が伝わる。
「アレン」
 呼ばれて薄く目を開く。
「いい?」
 主語の無い疑問。
 何を尋ねられているのか、アレンにはそれが薄々と判ってはいたけれど。
(ズルイ)
(こんなの)
 視線で答えを返す。
(断れるわけない)
 その瞬きの返答に、ラビは満足したように笑みを浮かべ、もう一度唇を近づけた。
 また乾いた唇が触れ合わさる。
 二度三度方向を変えて体温を確かめ合った後、
(……あ)
 ちろり、とラビの舌先がアレンの唇を舐める。
 びりり、と電流が走るようにアレンは目の前がチカチカした。
 ふ、と力を抜いた瞬間に、ラビの舌先がアレンの唇を割る。
(ん……っ)
 身構えるよりも早く、先ほどよりもリアルに体温を感じあう行為に、エドは声を零した。
「ま……っ、ラビ――ッ」
 す、とラビの動きが止まる。
「……怖いんか?」
(――っ)
 息が。
 止まってしまいそうだ。
 アレンはゆっくりと息を吸い込む。
(そんな)
 唇指一本も離れたところで囁かないで。
(おかしくなりそうだ)
 それは判っているのに、ふるふると顔が横に振れる。
「だいじょぶさ」
 ふう、とラビに全身を抱きすくめられる。
「力、抜いて」
 そうしようと思うのだけれど、身体の中に入った芯みたいなものがピンと緊張したままで動かない。
「怖いなら目ぇ閉じてりゃいいから」
 その声に身体を任せて、視界を閉じた。
 そうすると、やんわりとラビの唇がまた触れてくる。
 触れるたびに身体が少しずつ燃え上がっていくようで、
(燃え尽きそう)
 そのうち、多分、ラビにも気付かれずに炭になってしまいそうで。
 熱い体を隠しながら口付けを受ける。入ってきたラビの舌を、今度は同じ柔らかさで迎えた。
 唇よりもっともっと深いところで体温を感じられる。
(ラビって本当に)
(熱い)
(あ、もしかして、僕も)
 くちゅり、と口腔でラビの舌先がアレンのそれが交わる。
 そうすると体温の差は感じなくなった。
(同じ体温)
 そうであることがこんなにも嬉しい。
 水音を立てて舌が交わる。
 歯列をなぞられ、口蓋も舌の上もすべて嘗め尽くされて、アレンは更に体温が上昇するのが判った。
「アレン……」
 抱きすくめられたままで唇からラビが離れる。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。
 点々と口付けを残しながら

「すきだよ」

 そんな言葉をその口付けの合間に紛らせる。
(ああだから)
(ズルイって)
(言ったのに)
 そんなに愛しそうな声で呼ばれたら、
 返事だって出来ない。
 ラビは、つ、と視線をアレンの胸元に落とすと、シャツを留めているタイをかしりと噛んだ。
 今にもするりとほどけてしまいそうなタイ。
「……ん」 
 ラビの口許から吐息にも呻きにも似た声が上がり、その声に今度はアレンが欲情する。
「ラビ……」
 目の前にラビの額当て。
 何の不思議もなく、自然にソレに口付ける。
 ラビがしてくれたように、何度も。
 そうしていると、自分の気持ちがどこにあるのか、湧き出るような感情にアレンは気付いた。
 服越しにラビの肌のぬくもりが伝わる。
 アレンはラビの髪に顔を埋めて、聞こえないように、届かないように、小さな小さな声でつぶやいた。
(すきです)
 僕も、という言葉は、空中にふわりと吸い込まれる。
 布ずれの音がして、ゆるりとタイが解けて二人の足元に滑り落ちた。
 ラビの唇がアレンの鎖骨に沿う。
 噛むと残る、紅い跡。
(ああ)


 それはゆるんだタイの代わりに、きつくアレンの胸元を締め付けた。


(終)


物語としては完成していないのだけれどとりあえずラビアレキスが書きたくて書いた駄文。
タイトルは「タイ」「縛り付ける」の意味で。
反応いただけると多謝。キスばっかで長いよ!てな感想も勿論お待ちしております(笑)


←モドル