アカツキ


 そうだ。
 どうせひとつの目覚めなら。


 ぼんやりとしていた意識がじんわりと引き戻されたのは、カーテンが開いたからでは無い。

 隣でベッドサイドの時計を掴み、ガタガタと時刻を確認したらしい人物が、何度か溜息をついて寝返りを打つ。
 それからがしがしと頭を掻き、起き上がってカーテンを開いた。どうやら目覚めを自己喚起しているらしい。
 まっさらな太陽の光は、目を閉じた自分にも伝わり、眩しい、と思った。
 目を開くことが困難な程に、その光が目に沁みる。
 そうしている間にも、彼が目を覚まして寝台から離れ、服を身に付ける音がする。
 もう出かけるのか。
 昨日もあんなに遅くまで仕事してたのに。
 いつも放ったらかしにされてるな、と自分に笑う。
 仕方が無い。彼はそういうひとだから。
 それでも浮き沈みする意識の中で、何か恨み事のひとつも言ってやろうと口を開く前に、耳元で、
「鋼の」
 と呼ばれると、蕩けそうな眠気がじわりと一瞬解けた。
 薄く目を開くと、逆光で見えない彼の顔。
 ああ、なんて、
 眩しいヒカリだろうと思う。
 それが邪魔で彼の表情が判らないじゃないか。
 眉間に寄せた皺に気付いたのは彼の方だったのかもしれない。
「眠いか」
「まぶしいんだよ」
「眠いんだろう」
「……どっちでも」
 善いじゃねえか、と呟いた声は、確かに自分でも少し眠気が残っていた。
「私は仕事に行くぞ」
 それしきのことで起こすんじゃねえよ、と心で毒を吐く。
 起きたのはオレだけど。
「今日も遅くなるから」
 好きにしていろ、とお決まりの台詞を言う。
 自分にだってやらなくてはならないことがある。
 そんなに度々セントラルシティに来れるわけでもないのに。
 彼が今夜帰っても、もう自分はここにはいないことくらい、彼にも分かっているのに。
 それでも今日も遅くなるから、と。
 会う度にこの台詞、会う度にこの態度。
「……鋼の」
 なあ。
 次に会えるのはいつになるかも判らないのに。
 アンタはいつも約束のひとつもしやしない。
「聞いているのか?」
 それが必要の無いものだからだと。
 気付いたのは最近のことだ。
「聞いてるよ」
 煩くなって彼の襟元を引っ張ると、それが口付けになった。

 そうだ、どうせひとつの目覚めなら、
 噛み付くくらいのキスが善い。

 アンタがオレを忘れないように。

 


 

(終)


ロイエドお題「おはよう」でした。
コメントの付けようが無いSSです。
感想頂けると非常に嬉しいです〜。
……エドロイっぽい……?

2004/06/02


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