オンザライン



 手に入らずに悔やむのなら、初めから手に入れようなんて思わなければいいのに、と少年は言った。

「そう簡単にはいかないものさ」
 男は小さく笑った。
 少年が述べた理性論に男は反対もしない。が肯定もしなかった。
「手に入れたい、と思う」
 男は唸るように言葉を捻り出した。
「そうするともう堪らなくなる。自分でも抑え切れないくらいにな」
「そういうモン?」
 ああ、と男は頷く。
 暗闇の中で、ベッドサイドの明かりもつけていないのに、窓から僅かに差し込む街灯の光だけで気配がわかる。
 少年は、黒豹に似ている、と男のことを思った。短い黒髪も、整った筋肉も、しなやかで強い。
 違うのは、瞳が黒いことだけだ。黒豹の目は金色く光るという。
「決して手に入らないものを、人間は求めようとしない」
 と男は続ける。
「かと言って、容易く手に入ってしまうものなら、求める必要もない」
「何が言いたいんだ」
「つまり、だ」
 開けっ放しの窓からは風のひとつも吹き込まない。
 息がつまりそうだと少年は思う。
「手に入るか入らないのか、実に微妙の境界にあるものを、ひとは欲しい、と思うのだよ」
 判るかね、と男は言う。
 少年はその言葉が、まるで自分への侮辱であるかのように――君に判るかね、いや判らないだろう、という――感じられて、少々むっとした。
 判らないでもなかったのに、機嫌の悪さが乗じて、
「知らないな」
 とつっけんどんに返した。
「ただひとつ言えることは、オレはアンタの手にはハマらないってことだ」
「つれないね」
「どーだか」
 フン、と少年は鼻で笑ってみせる。
 この男は大概誰にでもこのような口調で話すのだろう。
 そう思ってばさりと髪を乱して寝返りを打つと、小さく睨んでみせた。
 男は込み上げた苦笑を抑え切れないとでも言うように額に手を当てる。
「参ったな」
 何が、と少年は問う。
「私は君が欲しくて堪らないよ」
 手のひらの指の間から見えた黒い瞳が一瞬金色に光る。
 まるで少年のそれを映し出すかのように。
「嘘吐き」
 オレはアンタのものになんか、絶対にならないのに。
 少年は呟き、男の口付けを受ける。

 窓の外で黒豹に似た猫がみゃあと小さく鳴いた。

(終)


私はどちらかと言うと英語より片仮名が好きです。(何)
日記突発SS。何が書きたかったって猫がね……!(ぇ)
2004/07/24


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