ぶるり、と体が震えて目が覚めた。
(……う)
 瞬きをした瞼が、その動きだけでひんやりと冷たい。
 頭から毛布を被っているはずなのに、温度が足りない。
 足りない部分を補おうと毛布を更に引き寄せると、枕元で呆れたような声がした。
「兄さん、まだ寝てるつもり?」
 アルフォンスの、金属に響く独特の声が耳に届く。毛布でくぐもってはいたけれど。
「もうお昼が来るよ。――ホラ、そろそろ起きなよ」
 ゆさゆさと揺さぶられ、容赦なく毛布を引き剥がされて、抵抗する暇も無く寝着一枚纏っただけの体が外気に晒される。
 空気の冷たさが一瞬のうちに皮膚をなで上げ、ぞくりと遅れて二度目の震えがこみ上げた。
「おっまえな……」
「こんな時間まで寝てる兄さんが悪い」
「だからって毛布引き剥がすことねえだろーが」
 お前と違って俺は半分生身なんだ、と言い掛け、口を噤む。
 こういう些細なことで、弟を傷つけていたのかもしれない、と気付き。
 なのにアルフォンスときたら飄々とした口調で、
「さあね、僕には寒さなんてわかんないから」
 と息をついて見せる。
 こんな時には便利だよね、なんて付け加えて。
 アルフォンスが部屋についている水場に立った隙に、エドワードは引き剥がされた毛布に再び包まった。
 寝転がっていては怒られるので、ベッドの上、膝を抱えて。
 窓が白く曇っている。
 手を伸ばして、きゅきゅ、と触れると、ほんの少し空が見える平面。
 真っ白な空から、ふわり、ふわりと落ちるもの。
(ああ、道理で)
 温度が下がるわけだ、と、冷えた指先で毛布を掴む。
「ホラ、コーヒーでも飲んで、目ぇ覚まして」
 昼から国立図書館に行くんでしょう。
 すっかり忘れていた今日の予定を吹き込まれ、ああそうだった、とエドワードはコーヒーを受け取った。
 熱いカップ。
 立ち上る湯気。
 温度は違う、同じ白さ。
(何、してるかな……)
 コーヒー好きの人を思う。
 窓の向こう、見えないけれど、探してみる。
 今日くらいは、あの濃紺の制服を白く染めて、役立たずの手袋に舌打ちなんかしたりして。
 同じように窓を見つめていたりするのだろうか。
(――電話)
 ここ1ヶ月、連絡も取っていない。
 自分から連絡するのは厭だけれど、何も無いのは、忘れられたようで――寂しい。
 電話とか手紙とか、そういうちっぽけなもので繋がっている関係だと、思いたくはないけれど。
(……しようかな……)
 先週から、アルフォンスの方が心配して、電話でもすれば、と言葉を寄越す。
 誰がしてやるもんか、とは言ったものの。
「僕、チェックアウトしてくるから、その間に準備しといてよ」 
「……おう」
 生返事をしてカップに唇を当てる。
 考えている間にもどんどんぬるく苦くなっていくコーヒー。
 自分達の関係が、これと同じだったら。
(厭、だな……)
 毛布越しの膝を抱える。
 声が聞きたいわけではない。(多分)
 何か話す必要があるわけでもない。(きっと)
 連絡がないと不安になるなんて、そんな筈は無い。(絶対)
 けれど。
 湯気が舞う。

(寒いな、って)
 言いたいだけ。

 そんなふうに思うは自分だけなのだろうか、と思うと、胸の奥が痛むような苦しいような気持ちになって、目を閉じ、カップを額に押し付けた。








「こ」 コーヒーカップ