BLOWIN'


 



「……ぁ」
 目が覚めると真夜中だった。
 じっとりとした暗闇が耳の穴まで入り込んでくるようで、思わずこくりと息を呑む。
 吐息が荒い。
 そう暑いわけでもないのに、額にじんわりと汗が滲んでいるのが判る。
 それを手の甲で拭うと、隣の寝台から声が飛んだ。
「悪い夢でも見たのか」
 うん、と答える。
 べたつくシーツを剥がしながら、起き上がる。寝台に腰掛けて、ゆっくりと息をした。
 彼は背を向けて横たわっていた体をこちらに向けた。
「起きてたんだ」
「てめぇが魘されてるから目が覚めた」
「あ……悪ィ」
 あんまりにも三蔵の声が悪びれのないそれだったから、悪夢を見ることに罪は無いはずなのに、なぜか謝罪の言葉が悟空の口をついた。
 テーブルサイドのコップから、注いで時間が経ったせいで温くなった水に口を付ける。ごくごく、と一気に飲んだが、体の中にあるもやもやとした嫌な感じは薄まらなかった。 
 悪夢の一番嫌なところは、起きた直後に夢の内容を忘れてしまうことだ、と悟空は思う。そうすると、原因は分からないのに胸を真綿で締め付けるような気味の悪い感覚だけが残るのだ。
 胸の辺りをシャツ越しにゴシゴシと擦る。そうすると、その嫌な感じが少しでも消えていくような気がしたのだ。
「何か、わかんねーけど、コテンパンにヤられる夢だった」
 ような気がする、というと、三蔵は薄く笑った。
「……だせェ」
「言うな。俺だって好きで見たわけじゃねーんだから」
「馬鹿猿だからだろ」 
 そう言うと、いかにも気だるげに三蔵はシーツの裾を揺らし、
「来いよ」
 と言った。
 悟空は、うん、と頷き、それからすぐに三蔵の寝台に入ろうとして、汗でびっしょりなシャツに気付いた。
 数秒迷ってそれを脱ぎ捨て、裸の胸を曝して三蔵のシーツに潜り込む。
 何だ、と三蔵は唸った。
「誘ってんのか」
「違ぇよ、気持ち悪いんだよ、シャツが濡れてると」
 口を尖らせて言うと、三蔵はまた笑った。
 最近気付いたことだ。眠いとき、三蔵はよく笑う。覚醒しているときは、数えても片手に余るほどしか笑わないのに。
 つまんねえ、と三蔵は言った。
「さっさと寝ろ、俺は眠ィ」
「……ん」
 言われて悟空は目を閉じる。
 目を閉じる瞬間に、三蔵の寝顔をこっそりと盗み見る。
 閉じられた瞳は長い睫毛に覆われ、乱れた前髪が額で揺れている。
 その瞳が薄く開いた。
「何見てやがる」
 悟空はどぎまぎした。
 細く自分を見る紫の瞳。
 びり、と全身に電気刺激が走ったような気がした。
「何でもねえよ」
 その答えに、三蔵は片眉を上げ、そして目を閉じる。
 悟空もすぐに瞼が降りてくる。
 そうしながら、ふとボコボコにされて負けた夢をちらりと思い出した。
 

 どんなに強くなっても、自分は三蔵には勝てないだろう、と思った。


 それで善いのだ。自分に勝って善いのは三蔵だけなのだから。
 そう思うと、笑みが浮かんだ。
 それで三蔵が先ほど自分に笑った理由も分かる気がした。
 すぐに眠りに落ちる。
 だから、悟空は知らない。

 すうすうと悟空の唇から聞え始める頃。
 そっと、気付かれないくらいに小さなキスが額に落ちたことを。

(終)

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いつも三蔵がヘタレなので、たまには悟空がヘタレな二人を書いてみました。
三蔵が人間らしく、悟空がヘタレなのに強気。
……原作的では無いことは認めましょう(笑)
甘いですね。珍しく(笑) 突発的SSでした。
出典はB'z「BLOWIN'」より。気付かれた方は流石。



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