With you.
Konzen x Goku >>Very Sweet, X’mas only



「じゃあ〜んっ!」
 そう言いながら飛び込んできたソイツを見て、俺は大きく溜息をついた。そしてソレを考え付いたのが誰だろうなんて考える間もなく、当然のようにその人物に思い当たる。
「……どうせまた天蓬だろう?」
「アレ? なんで分かったの?」
 分からないはずがない。全くソイツの着ている服と言ったら、紅い上着、紅い帽子、紅い靴、極めつけは紅い半ズボンときやがった。大体こんな趣味を持つ野郎と言えば、奴以外に思い当たる名前がない。
「ねぇ変? この格好」
 そういうとソイツは不安げに俯いた。思い切り短いズボンから覗く白い足に目が行ってしまって、俺は慌てて顔を背けた。おいおい待てよ、と自分でも思う。相手は猿だ。猿なんだ。そう言い聞かせてようやく口を開いた。
「変……じゃあないがな。」
「そう? 似合う!?」
 ソイツは猿というより子犬のように俺にじゃれてくるから、仕方なく俺は逃げるように椅子を立った。その格好で目の前に立たれると、なぜか目のやりどころがなくて困ってしまうのだ。
「さぁな。それより何なんだ、その格好は……」
 何を企んでるかは知らんがな、天蓬。
 そんなことを胸の中で呟きながら、俺は窓を開けて風を入れた。いつも温度の変わらない風。それでも今日はそれが涼しく思える。――俺に熱でもあるのだろうか。
「あのさ、『げかい』では、今日がお祭りなんだって。『せいたんさい』っていうお祭り。」
「……聖誕祭?」
 その言葉に、ついに俺は振り向いてしまった。
「そ。『くりすます』って言うんだって。」

 

 悟空が語るところによれば、悟空が俺の仕事部屋から追い出され、いつものように天蓬の部屋に遊びに行ったのは昼前のことだったらしい。
「くりすます? 何それ、天ちゃん。」
「聖誕祭っていいましてね、キリストという偉大な方がご誕生された日なんですよ」
「へぇ……」
 分かっているのかいないのか、悟空は感嘆の声を上げた。その傍で低い唸り声が上がる。言わずと知れた捲簾大将だ。その腕には頭さえ隠れてしまうほどの本や書物の山が出来ており、その隙間からは青筋を立てた捲簾の表情が伺える。
「だ〜か〜ら! それはいいからよ、天蓬。お前の片付けにどうして俺ばっかが片付けなきゃいけねーんだよ?」
 お前も手伝え。
 暗にそう言っているらしいのだが、当人の天蓬は涼しい顔である。
「あらら。だって僕が片付けると片付けにならないものですから♪」
 いつでもどこでもどんな場合でも、本を読み始めたら読み散らかすまで読んでしまう自分の性格を、多少なりとも天蓬は理解しているらしい。
「どーでもいいけど、そゆこた音符付きで言うなよ……」
 うんざりといった表情をして、捲簾はまた掃除を始める。何だかんだ言って天蓬には逆らえない捲簾である。そんな捲簾を見ながら悟空はうーんと考え込んだ。
「くりすますかぁ。俺も金蝉とお祭りしたいなぁ」
「金蝉と?」
「うん。金蝉、いっつもむずかしそーな顔してるしさ。たまにはお祭りとか……ダメかな?」
 大きな金色の眼がじっと天蓬を見上げる。天蓬は悟空の言葉に少し驚くように目を見張ると、優しい微笑をたたえて答えた。
「いいえ。いいんじゃないですか? お手伝いしますよ」
「ホント? 手伝ってくれるの?」
「ええ。じゃあとりあえず、こちらに来てください」
 そう言うと天蓬は悟空を連れてさっさと本棚の向こう側へ行ってしまった。
「おーい、俺はどーなるのよ……」
 後に残された捲簾が情けない声を上げていたことなど勿論気に留めるはずもなく。

***

「それでね!」
 ぴょんと悟空が飛びついてきて、猿ほど運動神経がよくない俺は少しよろめいてそれを受け止める形になってしまった。
「天ちゃんが、皆で『くりすますぱーてぃー』しようって」
 その小さな体は精一杯に背伸びして俺を見上げながら、満面の笑みを浮かべている。それを見ると、不毛とは知りつつも、ついつい視線を合わせるために俺も腰をおろしてしまう。
「クリスマスパーティー……?」
 何となく嫌な予感がして俺は顔をしかめた。
 ……と、いうことは。
「まさかここでするんじゃねぇだろうな?」
「うん。だってココ広いし」
 天ちゃんのお部屋、本でいっぱいなんだもん。
 そういって小猿は無邪気に笑いながら部屋を見回す。勿論『執務室』というちゃんとした名前のついた部屋を、である。またいつぞやのように窓ガラスを割るなんてことのないようにしなくては、と俺は頭を押さえた。それ以前にやりかけの書類を汚されたりでもされたらたまらない。そこまで考えて、俺は小さく溜息をついた。
 ――俺も落ちたもんだ。ついこの間までは、観音や次郎神以外の人間がこの部屋に立ち入るのさえ赦してはいなかったのに。伸ばせば手の届く範囲に誰かがいるのは、それだけでうんざりしたものだったのに。
「金蝉……?」
 顔をしかめたまま自分を見ているのを不思議に思ったのか、悟空は俺に抱きつきながらそっと首を傾げた。まったく自然に俺はその体を引き寄せていた。――いつの間に『誰か』が傍にいることが当たり前になってしまったんだろうか。もう一度溜息をつくと、顰めた眉はそのままで俺は諦めたように声を出した。
「仕方ねぇな。奴らが来るまでに仕事終わらせるから、大人しくしてろよ」
「うん!」
 そうしてもう一度机につくと、目の前に山積みにされている書類を片付けていく。大人しくしていろと言われた悟空はしばらく暇そうにしていたが、突然何かを思い出したかのように部屋を出て行った。いぶかしげに思いながら筆を進めていると、意外と早く戻って来た。悟空が何か大きな物を引きずりながら部屋に入ってくるのが見えた。
「ハイ!」
 悟空は元気よく、その手に握られた「大きなもの」を俺に手渡した。俺は本日二度目の嫌な予感を抱えつつ、筆を止める。
「…………何だコレは?」
「ん! 金蝉の分」
 そうしてにこりと浮かべられた笑顔は、天蓬のそれとは別の意味で逆らえないもので。

 

 その後、天蓬や捲簾が来るよりも早く執務室を訪れた観音が、サンタの格好をした俺を見て大笑いしたことは言うまでもなかった。
「天蓬、覚えとけよ……!」
「半ズボンでなかっただけ感謝してくださいよ♪」


 (終)




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