唯ひとつの罰を



「戦場でご法度なモンって何だと思う?」
 その男は寝そべって煙草を咥え、火を付けながらそんなことを尋ねた。
 キラはまだどこか咽るような息を整えつつ、気だるい体でそっと身じろぐ。
「・・・ご法度って――禁止されてることですよね?」
「そ。やっちゃ駄目ってなコト」
「うーん・・・何だろ・・・」
 もぞ、とキラはシーツを肩に被りつつ、大きく息をついた。まだ息が荒い。
 それに比べてこちらはさすがといったところだろうか。たった今行為を終えたばかりとは思えない余裕を持って、フラガは煙草の煙を吸い込んだ。
「・・・軍の規律を乱すこと」
「うーん。大きいな。もーちょい細かく」
「上官の意見にしたがわないこと?」
「うーん。それも有り得るな」
 もっともお前が言っても説得力ないけど、とフラガは苦笑を浮かべた。
「なかなか酷いこと言ってくれますね」
「ホントのことだろ。俺がどれだけお前の破天荒な行為に振り回されてきたか」
「その僕を先ほど振り回して下さったのは何処の誰でしたっけ?」
「言うねえ――お前も」
 フラガはキラの言葉ににやりと笑みを浮かべ、煙を吐き出した。馴れた手つきで煙草の灰を落すと、ゆらりと煙が天井に向かって上がる。
「ナニ、もっと振り回した方がよかった?」
「冗談はやめてくださいよ。――これ以上貴方につき合わされたら壊れてしまいます」
「大丈夫。俺を信じろ」
「それが怖いって言ってんですよ」
 キラはフラガの軽口に笑みを浮かべ、寝返りを打った。
 大分息が戻ってきた。息をつくだけで手一杯だった肺が、煙草の煙を感じ取って軽く咽る。
 フラガは煙草を咥えたまま、シーツを被っただけの、剥き出しのキラの体に指を這わせた。
 先ほどまでの行為で滲んだ汗が指を滑らせ、あらぬ方向へとその指先を向ける。
 果てたばかりのキラの体は敏感にそれに反応し、ピクピクと瞼を震わせた。
「・・・ァ・・・っ」
「ホラな、まだ感じるだろ」
「だからってもう・・・今日は勘弁してくださいよ、そうでなくても明日は朝が早いのに――」
「じゃあ俺が起こしてやるよ。それで善いだろう?」
 フラガは指に煙草を取ると、まだ煙草の匂いの残る口付けをキラの髪に落とした。
 キラはくすぐったそうに身をよじって目を細める。
「嫌ですよ。少佐、時間通りに起きたことってないでしょう」
「お。よくわかってんじゃないか」
「・・・そりゃまあ、起こしに来るのは僕ですからね」
 キラは渋々という様子でフラガの口付けを頬に受けると、小さく吐息を漏らした。
 実際のところ、体はもう大分気だるい。このまま朝までフラガと体を重ねてしまえば、明日の軍事朝会に出ることは難しくなるだろう。
 キラはセカンドラウンドに持ち込もうとしているフラガの体を押さえると、切羽詰まったような声で言った。
「ところで、何なんですか――、戦場のご法度って」
 そういえば行為がやむかと思ったのだが、生憎その言葉はフラガにとっては単なる睦言の一つに過ぎなかったらしく、 熱を隠す仕草もなくフラガはキラの首筋にキスマークを落とした。
 そして緩く顔を上げてキラを見ると、
「レンアイカンジョウ」
 とわざと片言の口調で言った。
「別に敵や味方は問わないけどな。ンな感情が一番ご法度なのさ。戦場ではね」
 キラはフラガの言葉に目を丸くし、そしてやがて苦笑の吐息を吐いた。
 戦いの中で一番怖いのは、負けることでも死ぬことでもない。
 ひとを愛してしまうことだと。
 それが今更わかったところで、自分にどうしろと言うのだろう。
 そうだ、もう後戻りなど出来やしないのだ。
 始まってしまった戦いならば、終わるまで剣を取るしかない。
 愛してしまった人ならば、――終わるまで愛する他は、無いのだ。
「・・・もう、手遅れですよ」
 キラがそう言うと、フラガが顔を上げた。
 キラはその頭ごと自分の方へ引き寄せる。
 そしてゆるりと口元を引き上げ、あえかに笑んだ。
「・・・ね――じゃあ少佐、僕に」
 貴方を愛してしまった僕に、
 貴方だけが与えられる、唯ひとつの罰を。
「――お前も策士だな」
 男は緩く笑んだ。

 それは束縛という名の、甘い甘い罰を。

 (終)






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