マイリトルラバー



   俺の恋人はよく怒る。

「もう、やめて下さいってば!」
 キラはそう言うと、俺の体を力一杯に押しのけた。
 部屋いっぱいに広がった声に俺は溜息をつきながら、嫌がるのが判っていてキラの頭に顔を埋める。
「何でそんなに嫌がるの」
「嫌がってるんじゃなくて嫌なんです」
「つれないねえ。善いじゃないのキスくらい」
 そう言うと、キラの顔がかっと赤く染まった。
「善くないですッ! それにそういう直接的な言い方は――やめて下さい」
「わー。顔真っ赤」
「放っといて下さいっ!!」
 キラはそう言うと、逃げられない俺の腕の中でぷいとそっぽを向く。
 明日の戦闘についての打ち合わせをしようという名目で部屋に連れ込んで。
 俺の指の動きを見ていたキラに見蕩れて思わずキスして。
 流されついでに押し倒そうとしたら、この有様だ。
 ・・・俺の何が悪いって言うんだ。
 悪くないよな。うん、俺は悪くない。
「こういうことばっかりするんですか、・・・少佐って」
「別に誰にでもってわけじゃないぜ? お前だけだし」
「や、そういうことを聞いてるんじゃなくて・・・」
 そう言いながらキラは更に真っ赤になっていく。
 可愛いなぁと思う。こういうところは。
 口と顔が全然違う。言ってることとやってることが一致してない。
 拗ねてじっと俺を見上げる視線なんか、相手が拗ねてることも忘れて抱き締めたくなるほど可愛い。
 可愛げがないとか口では言ったりするけれど、何だかんだ言って可愛い。
 しかしなァ。キスくらいで顔真っ赤になるかなフツー。
 だってこう言っちゃナンだが、キラとそーゆー関係になって久しい。
 キスどころか、その次の次の次くらいのことは済ませちゃってるわけで。
 それなのにいつまでも慣れない。触れるくらいのキスでも、場所が場所なら頭から湯気だしそうに真っ赤になる。
 でも今は俺の自室なわけだし。
 まあ唐突だったといえばそれまでだけど、覚悟とか・・・してねーのかな、キラの奴。
 俺の部屋に来るってことは、それなりの覚悟しといた方が善いと思うんだけど。
 その辺りの自覚の無さは俺も怖い。うっかりしてたら他の奴に持っていかれたりしちゃいそうで。
「・・・何・・・見てるんですか、少佐」
「あ、悪ィ」
 いつの間にかキラの顔をじっと見ていたらしい。
 キラが不審な顔で俺を見ている。
 大きい目だなァ。吸い込まれてしまいそうだ。
「・・・吸い込めるわけないでしょう」
 ありゃ。言葉になってたのか。
「でもホラ、あながち間違いでもないだろ」
「・・・? どういうことですか?」
「お前、俺を飲み込んじゃうわけだし」
 俺がそう言って人差し指をぴっと立てると、キラは眉を寄せて不思議そうな顔をしていたが、俺の言葉の意味に気付いたのか、また顔がかぁっと赤くなった。
「ななななななに言ってるんですかッ!!」
「狭いけどなー、でも前の時だってちゃんと奥まで入ったじゃんか」
「そそそそんなこと平気な顔で言わないで下さいっ!!」
「じゃあ平気な顔じゃなきゃ善いのか?」
「そういう問題じゃありません!!」
 はーはー、とキラは肩で息をしながら俺をじっと強く見詰めている。
 俺はキラが喚いている間に、更にキラの体を引き寄せていたりする。
 キラの体。
 女の子みたいに柔らかくも、大人の男みたいに強くもないけれど、一番愛しい体。
 最近微妙にキラ以外で反応できなくなってる。・・・俺も重症だよなァ。
 あ。・・・これはヤバイ。
 ・・・キラは気付いているのだろうか?
「しょ・・・少佐・・・っ」 
 あ、気付いた。
「ちょっと何考えてるんですかッ!」
「や、だってお前の体がぴったりくっ付くもんだから・・・」
「あぁもう言わなくて善いですから!!」
 キラはバッと手の平で俺の口を塞いだ。
 ぺろ、と舐めてみる。
「・・・ッ・・・」
 思った通り顔を赤くしたまま、キラは飛び跳ねるように俺から手を離した。
 そして俯いたまま、ぐっと手の平に力を込めて。
「やっぱり僕・・・少佐なんて・・・少佐なんて・・・っ」
「・・・俺なんて?」
 聞き返した俺をキッと睨み。

「少佐なんて大っ嫌いですッ!!!」

 あーあ。また怒らせちゃった。
 何でかなァ。ま、可愛いから善いんだけど。
 とりあえず俺は悪くないよな。
 うん、悪くない。

(終)



BACK