※このお話はオリジナル設定であり、サイト内の他のSSとの関連性はありません。






 君は、と男はキラに小さく笑いかける。
「どうして、空を見るたびに悲しそうな顔をするのだろうね」
 キラはその視線を受け止めきれず、ゆらり、とまた窓の外を見る。
 硝子の嵌められた窓。装飾の施された窓枠は、それだけで、まるで窓の外の空を綺麗な絵のように錯覚させる。
 そして確かに、その空は、イミテーションであるという点で、描かれた空と同じなのだ。
「そう……見えますか」
「ああ」
 呟く言葉を男が拾う。
 豊かに伸ばされた黒髪が、重たさを感じさせない動きで揺れた。男は窓とキラの間に立った。
「この空は、君のお気に召さないかな」
「そんな、ことは――」
「そんな顔をさせるために、私は君をここに連れて来たわけではないよ」
 滑らかな動作で窓枠に体を預ける。
 その仕草はとても自然で――思い出さなくてもいいことを思い出させる。
 例えばそれは、同じ仕草で、青と赤と白の機体に凭れ掛っていた人のこと。
 その人に優しく抱きしめられたときのこと。
 眩暈を起こして、キラは額を手の平で押さえた。
 思い出したくなどない。
 思い出したくないから、自分は地球を離れ、ここに来たのだ。
 プラント最高評議委員であるこの男の誘いに乗って。
 偽物の空の下で暮らす為に。
「キラ」
 名前を呼ばれて、顎を指で導かれる。
 そうして交わされる口付けにも慣れてしまった。
 違うのは、名前を呼ぶときの声音、口付け、それだけ。
 そうされることで、忘れてゆけたらいいのに、と思う。出会ったことも別れたことも総て。
「この空には、雲があるけれど」
 口付けの合間に呟いた言葉を、男は器用に聞きとめ、ほんの少し眉を顰めた。
 そしてそれが、男が問うた質問の答えなのだと把握すると、唇を避けて唇で触れる。
「飛行機雲は見えないでしょう」
 それが悲しいのか、あるいは自分にとって救いであるのか、それはキラさえも判らない。
 ただ判るのは、偽物の空。
 偽物の雲。

 こんな空で、貴方は飛ばない。

「それでも君は」
 つ、と頬を男の指が辿ったのを感覚で知る。
「やはり泣くのだね」
 男は総てを知りながら、そっと、その額に密やかに唇を押し当てた。


「ひ」 飛行機雲